森につながる暮らしの提案

カスケードの利用

カスケードという言葉の響きから建築設計に携わる皆さんは、フランク・ロイド・ライトの代表作である「落水荘」:カウフマン邸が思い浮ぶのではないでしょうか。

木材関係の方々で、北米からの輸入原木で一般建築用梁桁材が満たされていた当時をご存知の方ならば、ダグラスファー(米マツ)やヘムロック(米つが)の産地銘柄を連想されることと思います。

同じ言葉を聞いて、最初に脳裏に浮かぶイメージは、携わる分野や経験により様々に異なるものなのでしょう。

カスケード:Cascadeとは、元もとは「段々になって流れ落ちる小滝」という自然地形を表した言葉のようです。このイメージは庭園計画や建築計画に採り入れられ、人工的な「落水」や「水階段」として造形的に表現されてきました

一方、カウフマン邸は計画にカスケードイメージを採り入れるのではなく、自然地形のカスケードそのものに計画された建物でした。

近年、カスケード利用という言葉が循環型社会構築という側面から、様々な分野で盛んに使われています。廃棄物抑制の分野では、「カスケードとは、庭園で階段状に連続した滝や水階段を意味します。カスケード利用とは、排水を段階的に別の用途に利用すること。風呂の残り湯を洗濯に使うこともカスケード利用と言えます。他の廃棄物にも適用できる考え方です。」と解説されています。

さて、木材のカスケード利用。木材に使われる前の自然型は森林に立つ樹木です。樹木は大気中の二酸化炭素と根から吸い上げた水とそこに含まれる微量なミネラルを上手に使い光合成により効率的に有機合成しながら生長することのできる生命体です。

残念ながら、未だ人間はこれほど効率的に無機物からヒトにとっても、ヒト以外の多様な生物にとっても有用な有機物に変換する装置を造りだすことができていません。

今しばらくは、森林生態系と呼ばれるこの変換装置の効率が低下しない範囲で、また森林生態系の保全に役立つように木材を使っていくことが、カスケード利用の前提になると思われます。

あいちの木で家を造る会では、名古屋市吹上展示場で3月17~19日に開催された ハウジング&リフォームあいち2007テーマゾーン『どうなるの?どうするの?地球にやさしいすまい』の企画運営を愛知県建設部建築部局住宅計画課から発行された『あいちエコ住宅ガイドライン(小中学生版)』に基づき担当することができました。

限られた予算と開催期日まで一月余りの準備期間にも拘らず、折角の機会をいただいたからには、一昨年、豊根村古民家調査の成果を活かした二間半(およそ4.5m)四方の架構モデルをあいちのスギで展示し、あわせて木材のカスケード利用についても小中学生にもわかりやすく展示しようと計画・実施しました。

従来から、柱用原木は3m、梁桁用原木は4mが定式化しているこの地域の素材生産の現場や木材市場ですが、メンバーのL社が鳳来町で独自の間伐事業を展開されており、ここから5m以上の原木調達ができたことが幸いでした。森林組合等の間伐方法では、たとえ高性能林業機械が導入されていても3mと4mに玉切りされた原木がほとんど。頼んでも二間半架構用材調達には数ヶ月掛かったのではと想像されます。

これを足助の製材工場にお願いして、二間半架構モデルの構造材を製材したところ、元玉を126?厚の平角に製材した側板から予想以上の無節・上小節の共木板が連産的に発生しました。

この長さ5.4m36厚の無節・上小節の共木の話しです。製材されたKさんから”パレット(物流荷役用具)やラミナ(集成材原料)にはもったいない”。”破風にも使えるが注文はあるだろうか"。”親父たちの時代であれば、倉庫に桟積みして注文が来るまでねかせて置けたが、世知辛いご時勢、賃挽きしているほうがリスクも少なく気楽”などなど現実も聞かせていただきました。

豊根村古民家調査でも、共木は様々に使われていました。そういえば、モンゴメリーの有名な「赤毛のアン」の原題は”Anne of Green Gables”(みどりのペンキで塗られた破風の切妻屋根に住む赤毛の少女の物語)でしたね。アンの家でも、きっと梁桁の共木が破風板や壁板などとして使われていたのでは…

着物職人は着心地を考えて襟をつける。着心地を左右するのは襟なのだそうです。また、もっとも汚れが目立ち傷みやすいのも襟ですね。そこで編み出された智慧として掛襟がありました。共襟は共布(ともぎれ)の掛襟です。昔は、よそゆきの着物にしか使わず、普段着は別布を用いていたそうです。掛襟だけをはずして洗う智慧でした。

洋装が一般的になった今日でも衣服と共柄の様々な小物がおしゃれにショーウインドを飾っています。

共木とは同じ丸太から取った板です。共木の二枚接ぎは木肌や木目が揃うことから、家具・建具や指物の技法として確立されました。両開きドアなどの鏡板では、隣同士の模様がまるで本を開いた時の様に左右対称に並ぶブックマッチと呼ばれる技法に人気があり、今日でもプリント合板や突き板合板で造られた木目調の様々な内装建材やキャビネットのデザインに見ることができます。

ハウジング&リフォームあいち2007テーマゾーンの『いのちの恵み』の企画として、木材のカスケード利用を表現した展示棚を、この長さ5.4mの無節・上小節の共木2枚を使って、末口径6~12?の小径材から丸棒加工されている足助木協の材料と組み合わせて作りました。

ご来場いただいた方々へは、2枚の棚板は樹高21mのスギの樹の切り株から6mの幹の一部であり、この上下の棚板に挟まれた部分が今回の二間半架構モデルの梁材に使われていることや、樹幹の更に上部6mからは4寸角の柱材2本が製材されたこと、この側板の更に外側にも樹皮や木部があり、パレット材や梱包材として、住宅建築分野以外でも様々に使える可能性があることも現物を交えて説明できました

多くの場合、柱に製材できない小径材や梢端材は伐採地に放置されてしまう山側の現状や丸棒加工や展示品の説明を通じて、カスケード利用の重要性をご理解いただけたのではないでしょうか。

展示棚の左下にパレットを置きその上にペレットストーブを展示、加工端材やオガ粉から造られた炭やペレットなどの木質バイオマス燃料や、愛知県産業技術研究所からお借りした「愛・地球博」で展示された復元万年時計の歯車(木粉形成体)などを木質バイオマス利用ネットワーク、都市の森・再生工房、国際環境NGO FoE.Japan森のプレゼント事務局の協力で展示棚に陳列しました。

あいちの木に暮らすことや住み心地のよい住宅を探してみえる多くの来場者の方々から、あいちの木の家の設えには、本物の共木を使った破風・鼻隠し(外部意匠)や床板・建具(内装)の仕様化を積極的に計っていく大切さを教えていただくことができました。

豊根村古民家調査で対象にされた家屋から程近く、みどり湖に注ぐ林に囲まれた渓流:カスケードの畔にも私有地で立ち入ることはできませんが「落水荘」を眺めることができます。一方で、事業採算に合わないとして間伐放置され、下草も生えずに土壌流某している個人所有の人工林も多いと聞きます。また、間伐されても値が付かない伐木部分は林内に捨てられてしまうのが市場経済の現実です。

森林生態系がつくりだしてくれた天然有機材料を様々な分野との関わりも視野に、森林生態系保全に役立つ木材のカスケード利用の実現が急がれます

最新の記事

アーカイブ

PAGETOP
Copyright © あいちの木で家をつくる会 All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.